「帝国の慰安婦」訴訟支援の会声明と賛同人リスト
さる10月27日、ソウル高等法廷裁判部は、元慰安婦の方たちの名誉を損なったとの嫌疑で起訴された朴裕河教授に罰金一千万ウォンの判決を下しました。韓国を、学問と表現の自由を尊重する国と信じてきた国内外のすべての人々にとって実に衝撃的なことと言うほかありません。2017年1月の第一審は、およそ一年をかけて、あたかも学術討論のような裁判を10回以上行い、朴教授に無罪を宣告しました。しかしこうした判決を軽く翻した二審の有罪宣告に、私たちは深い憂慮を禁じ得ません。
『帝国の慰安婦』の中で名誉毀損の証拠として検察が示した言葉は全て、証拠として有効とは言えず、著者に名誉毀損の意図があったとは考えられないというのが第一審の判断でした。同時に慰安婦問題は、社会の公的な関心事であるだけに、活発な公論形成のためにむしろ表現の自由を幅広く保証すべきだとして無罪の判決を出したのです。しかし、韓国司法部の合理性と公共性をあますところなく示してくれたその判決は二審で完璧にひっくり返りました。
有罪判決の根拠は二つに要約できます。そのひとつは、著者が「虚偽の事実」を提示したのであり、二つ目は、名誉毀損の「故意」があったとするものです。裁判部が、著者の慰安婦認識を「虚偽」とみなしたのは、韓国社会と国際社会の「正しい」認識とは異なるという理由でした。そして「故意」の判定は、慰安婦に対する「社会的評価」を「低下」させる効果のある主張であることを著者が知っていながらそうした主張をした、という判断に基づいていました。
しかし、これは学問的著作に向き合う態度として大変危険なものと私たちは考えます。慰安婦問題と関連して、「正しい」認識と「虚偽」の認識が最初から決まっているとみなすのは、慰安婦問題を活発な研究と討論の対象としないように方向付け、結果として慰安婦問題を日韓葛藤の原因として残しておく発想です。さらに、朴教授の本に名誉毀損の「効果」があると見るのは、その本のいくつかの効果の中の一つ、しかも、読者の側の特殊な利害関係のために生じやすい効果を誇張したものです。わたしたちは、二審裁判部が普遍的な学問の自由に関する関心より、特定の意図や目的を持つ学問活動や読書行為を奨励するのではないかとの疑問を持たざるを得ません。
『帝国の慰安婦』に対する賛否とはかかわりなく、私たちは二審裁判部の判決が韓国の学界・文化界に重大な危機をもたらすものと考えます。有罪宣告でもって裁判部が示唆したのは、韓国の学界・文化界は、今後身の安全を確保するためには国内の主流集団が「正しい」と認めた歴史認識のみに従わないといけないということでもあります。
学問の自由を保障した韓国の憲法条文は聞こえのよい修辞でしかなく、主流集団の利益や見解と異なるすべての研究は、処罰の対象になることでしょう。こうした二審裁判部の判決を前に、軍事独裁政権とともに消えたとみなされていた思想的統制が新たに復活したかのような感覚を覚え、画一的な歴史認識がもう一度強制されるかのように感じる人は少なくないでしょう。
有罪判決を出された朴教授の前におかれた道は険しいです。「正しいと認められた見解」と異なる、自らの意見を表現しようとする全ての韓国人の将来への道もまた、険しいです。
朴教授が刑事起訴されたとき、韓国・日本および欧米の学界をはじめ社会の各分野の多くの方々が事態の深刻性を理解し、司法部の思慮深い判断を促す嘆願にたちあがりました。一審の無罪判決はそうした努力が無駄ではなかったことを確認させてくれました。
しかし二審の時代錯誤的な有罪判決は、「異なる」意見を許さない国家および社会権力の存在とその抑圧性を明確に見せつけています。こうした状況に対抗する市民の意志を表すべき時と考えます。
そこで、わたしたちは朴教授の訴訟を支援し、そのための募金を始めます。歴史と政治のある問題について異なる考えを持つとしても、その考えを語る権利は守られるべきというのが、この募金を始めるわたしたちの基本的な考えです。朴教授を始めとする韓国の学者と文化人たちが、「異なる意見を語る」という理由で犯罪者の鎖につながれるようなことが、今後はいっさい発生しないよう、どうか多くの方々のご関心とご参加をこころより願っております。
2017年12月7日
賛同人
姜信杓 Shin-pyo Kang (仁済大学名誉教授)
姜運求 Kang Woongu (写真家)
高榮範 Young B. Oh (劇作家)
高宗錫 Koh Jongsok (作家・言語学者)
金京玉 Kim kyungok (演劇評論家)
金成姬 Seonghee KIM (桂園芸術大学)
金映圭 Kim YoungQ (仁荷大学)
金英鎔 Kim YoungYong (元 韓国経済新聞社長)
金容均 Yong Kyun Kim (梨花女子大)
金容雲 Yong-Woon Kim (漢陽大学名誉教授)
金禹昌 Kim Uchang (高麗大学名誉教授)
金源祐 KIM Wonwoo (作家)
金澤秀 Taik Soo Kim (図書出版 ディ オリジン社長)
金哲 K m Chul (延世大学 名誉教授)
南基正 Nam Kijeong (ソウル大学)
羅鍾一 Ra Jongyil (元駐日・駐英韓国大使)
朴慶洙 Park Kyungsoo (江陵原州大学)
朴三憲 Park Samheon (建国大学)
裵琇我 Bae suah (作家)
徐賢錫 Seo Hyun-Suk (延世大学)
辛炯基 SHIN HYUNG KI (延世大学)
安秉直 Byong Jick Ahn (ソウル大学名誉教授)
劉峻 Yoo Jun (延世大学)
尹聖晧 Yoon Songho (東西大学)
尹海東 Hae-Dong Yun (漢陽大学)
李康民 Kangmin Yi (漢陽大学)
慶順 Kyung Soon (映画監督)
李京塤 Lee Kyounghoon (延世大学)
李大根 Dae-Keun LEE (成均館大学名誉教授)
李淳在 Lee, Soon-Jae (世宗大学)
李栄薫 Lee Younghun (元ソウル大学教授)
李祭夏 Je Ha Lee (作家)
鄭鍾柱 JEONG Jong-job (図書出版プリワイパリ社長)
趙寛子 Jo Gwanja (ソウル大学)
曺碩柱 Seok-ju Cho (成均館大学教授)
趙容来 Cho Yong Rea (国民日報編集代表)
崔圭承 Choi Kyu Seung (詩人)
崔範 Choi Bum (評論家)
黄永植 Hwang Youngsik (韓国日報主筆)
黃鍾淵 Jongyon Hwang (東国大学)
黃鎬贊 Ho Chan Hwang (世宗大学)
金學成 HAK SUNG KIM (タボッ法律事務所)
金香勳 Kim HyangHoon (法務法人 セントロ )
李成文 LEE SEONG MUN (法務法人 明渡 )
李東稙 Dong Jik Lee (法務法人 新源)
李敏錫 Minseok Lee (李敏錫 法律事務所)
崔銘奎 Choi myung kyu (崔銘奎 法律事務所)
許中赫 Hur ZungHyuk (許中赫 法律事務所)
洪世旭 Hong Sae Uk (法務法人 H’s)
浅野豊美 (早稲田大学)
天江喜七郎 (元外交官)
岩崎稔 (東京外国語大学)
池田香代子 (翻訳家)
上野千鶴子 (東京大学名誉教授)
大江健三郎 (作家)
小倉紀蔵 (京都大学)
尾山令仁 (牧師/神学者)
加納実紀代 (元敬和学院大學教授)
清眞人 (元近畿大学教授)
金枓哲 (岡山大学)
熊木勉 (天理大學)
古城佳子 (東京大学)
小森陽一 (東京大学)
佐藤時啓 (東京芸術大学 ・写真家)
篠崎美生子 (恵泉女子大学)
竹内栄美子 (明治大学)
東郷和彦 (京都産業大学・元外交官)
東郷克美 (早稲田大学名誉教授)
成田龍一 (日本女子大学)
中川成美 (立命館大学)
中沢けい (法政大学/作家)
西成彦 (立命館大学)
西田勝 (文芸評論家)
朴貞蘭 (大分県立芸術文化短期大学)
朴晋暎 (写真家)
深川由起子 (早稲田大学)
藤井貞和 (東京大学名誉教授)
和田春樹 (東京大学名誉教授)
Gregory Clark (国際大学)
四方田犬彦(映画史、比較文学研究者)
千田有紀 (武蔵大学)
榎本隆司(早稲田大学名誉教授)
Andrew Gordon (Harvard University)
Brett de Bary (Cornell University )
Bruce Cumings (Chicago University)
Chizuko Allen (Hawaii University)
Daqing Yang (George Washington University)
Jin-Kyung Lee (University of California, San Diego)
John Treat (Yale University)
Mark Selden (Cornell University)
Michael K. Bourdaghs (University of Chicago)
Miyong KIM (University of Texas at Austin)
Noam Chomsky (MIT)
Sakai Naoki (Cornell University)
Sheldon Garon (Princeton University)
Tomi Suzuki (Columbia University)
Thomas Berger (Boston University)
William W. Grimes (Boston University)
Sejin Park (Adelaide University, Retired)
Alexander Bukh (Wellington Victoria University)
Reiko Abe Auestad (Oslo University)
Amae Yoshihisa (Chang Jung Christian University)
合計 102名
「帝国の慰安婦」訴訟支援の会
問い合わせ先:日本語 mas-nis@nifty.com
韓国関連事項:英語・ 韓国語parkyuha.organization@gmail.com
振込先:
1) SBJ銀行 大阪支店 普通預金 0158190(東アジア和解と平和の声)
swift code: SHBKJPJX
2) 韓国の口座
国民銀行(Kookmin Bank): 543001-01-447733
swift code: CZNBKRSEXXX(동아시아 화해와 평화의 목소리)
3) PayPalを使うことも可能です。その場合は以下のアドレスをご利用ください。
leejunghee2014@gmail.com((동아시아 화해와 평화의 목소리)